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Selfishly

Selfishly

Pa11、「秘密」


 スローライフ
              Pa11、「 秘密 」
                 H18,1/3 20:00



「へぇ~、じゃあ 今日、アルフォンスの奴が
 中将の家に来るんっすか。」
司令部に向かう朝の車の中で、昨日の夜の出来事の話を
聞いていたハボックが、嬉しそうに返事をする。

「ああ、今日から受験日までエドワードの家庭教師をしにね。」
朝から 機嫌の良かったエドワードを思い浮かべながら
少々、トーンの低いテンションで話をする。

「んじゃ、俺らも時間作って顔を見に行くことにしますよ。
 生身に戻ってからのアルって、どんな子か楽しみっすね。
 フュリーの奴も、アルフォンスと仲良かったんで、
 喜ぶだろうな~。」
ニコニコと笑顔で話すハボックの様子からして、
彼もアルフォンスの事を気に入っている事が伺える。

「・・・そうだな、また 時間が出来たら
 顔を出してやってくれ。」
「もちろんっす。」
 
会話は そこで終わったが、ハボックは戻ってくる
アルフォンスの想像をしているのか、
言葉少なに返すロイの様子には気づかないようだ。

『アルフォンス君は、軍のメンバーにも
 好かれている子だった。
 控えめで、優しい 良く気のつく子供で、
 好かれて当然だろうな。』

ロイ自身、あの頃の彼らと会っている時は
アルフォンスの事を好意的に思っていた。
けど、今は やや微妙な心境になる。
会いたくないと思っているわけじゃないんだが・・・。
なんとなく、昨晩から陰をおとす心境にとまどいながら
ハボックに気づかれないようにため息をつく。


「アルー! こっちだ、アル。」
駅のホームで、降りてくる乗客の中からアルフォンスを
見つけたエドワードが、大きく手を振りながら
アルフォンスに声をかける。

「兄さん!」
一生懸命に手を振っている兄の姿を目にとめて
アルフォンスも 嬉しそうに兄のいる所へ、
駆け寄っていく。

「兄さん、久しぶり。」
変わらぬ元気な兄の姿に安心し、
久しぶりの兄弟の再会を、心から喜んだ。

「おう、久しぶりだなー。
 なんか、こんな挨拶を俺らがするってのも、
 変なかんじだよな。」
エドワードも、久しぶりのアルフォンスとの会話で
浮かれ気味なのか、はしゃいでる感じが
歳より幼く見える彼を、さらに子供に見せている。
傍から見ると、どちらが兄かを当てれる人間は少ないだろう。

生身の戻った この1年で、アルフォンスは
もともと小柄な兄の成長より、さらに早い成長をして
追い越してしまっている。
エドワードが悔しがっていた身長もだが、
もともとの性格のせいか、落ち着いた雰囲気と穏やかな表情が
アルフォンスを外見以上に大人びて見せているせいで、
どうみても、アルフォンスの方が兄に見られるのだ。

「でね、一応 列車の中で 近年のセントラル大の傾向を
 調べておいたんだ。
 大体は わかったんで、後は兄さんの進み度を確認してから
 勉強のプログラムを作ろうかと思うんだ。」
エドワードの案内に従って、二人は帰る道々に近況や
受験の話に花を咲かせて歩いている。

「おう、そこら辺はお前に任せる。
 出来たら、足を引っ張らない程度の点数を稼げるように
 したいしな。」
弟に教わるという世間とは逆な状況も、
変にプライドや誇りを持たなくなったエドワードは
全く気にしておらず、信頼する弟に全権を任せている。

会わなかった間に話をしたい事は山ほどあり、
途切れる事のない会話を続けているうちに
ロイの家に着いた。

「ここだぜ。」
門の鍵を開けて案内するエドワードに付いて
中に入る。
「へぇー、中将になったから もっと大きなお屋敷みたいな
 家を想像してた。」
門を入って、家を眺めていたアルフォンスが
想像と違っていた事の感想を伝えた。

「ああ、ここは大佐の時に住んでたままの家だからな。
 でも、ここで一人で住んでたんだから
 十分だと思うぜ。」
玄関の鍵を開けながら、そう答えるエドワードの言葉に
兄が 以前から知っていたような口ぶりなのに
不思議に思う。

「兄さん、大佐の頃から ここ知ってたんだ。」

「ああ、ちょっとな。
 さぁ、どうぞ。」
鍵を開けて先に中に入るエドワードが、アルフォンスを
招き入れる。

「お邪魔します。」
礼儀正しく中に入って、
「へぇー、綺麗にしているね。
 中は さすが中将の家って感じだー。」

華美ではないが、品の良さそうな家具が 機能的に置かれており、
家主の人となりが感じられる。

「ああ、あいつ家具にはこだわりがあるのか、
 結構 高いものでも平気で買ってくるからな。
 取り扱いに気をつかうぜー。」
そう言いながらも、エドワードが大切にしているだろう事は
磨き上げられた部屋を見ればわかる。

「ここがリビングだから、座ってまっててくれ。
 お茶の用意してくるな。」
そう言うと、隣に隣接されているキッチンにだろう、
エドワードがはいっていった。
隣でお茶の用意をしているのが、聞こえてくるなか
自分が馴染みのない空間で、エドワードが自然に動いているのが
妙な感じをアルフォンスに与えている。

リビングも、玄関同様に 一目で高級品とわかる家具や
小物が 使い勝手よく配置されており、
住む人間が、居心地良くくつろげるだろう事が伝わってくる。

部屋を見回していると、トレーを持ったエドワードが
戻ってきた。
「ほい。」
アルフォンスに紅茶を渡してやりながら、
自分も 向かいのソファーに腰をおろす。
エドワードが 持っているカップは、
どうやら自分専用のマグカップのようだ。
気にいって使っているのだろう そのカップは
エドワードの手に馴染んでいる。

「アル、腹は空いてないか?」

「うん、まだ大丈夫、列車の中で遅めに食べちゃったんで。」

「そっか、じゃあ 食事は もう少し待っててくれよな。
 もうじき、ロイも戻ってくるんで そん時に一緒に
 食べるようにしようと思うから。」
エドワードが中将の事を「ロイ」と呼び捨てた事を
聞きとめたアルフォンスが 驚いて、エドワードに
聞いてくる。

「兄さん、中将の事 名前で呼んでるの?」

アルフォンスの驚きがわかるエドワードは
仕方ない表情を浮かべて、アルフォンスに説明してやる。

「そうなんだよなー、あいつが家でまで階級で呼ばれると
 仕事が終わった気がしないってんで、
 互いに名前で呼び合う事になったんだけど、
 最初は めちゃ抵抗があって、呼ぶのも躊躇ってたんだぜ。
 まぁ、最近は もう慣れちゃったとけどさ。」

はははっと笑うエドワードの無邪気な顔を、
複雑な思いで眺める。

「そう・・・、で ここでの生活は大丈夫?」
「ああ、結構順調にいってるぜ。
 まぁ、ちょっとロイには手を焼かせられる時もあるけど、
 たいした事もなく過ぎてるしな。」

エドワードが、順調に暮らしに馴染んでいっているのは
この家で動くエドワードの違和感のなさでもわかる。
それと、ここでの暮らしを話す兄の表情を見れば、
エドワードが、結構 ここでの生活が気にいっている事も。

「練成反応の方は大丈夫?」
「ああ、今のところ まだ出てきてない。」
「そっか、まだ アレしてるんだ。」
「ああ、さすが外す勇気はないんで。」
苦笑を浮かべながら、右手の腕の所を触る。

その後も、軍のメンバーの話や、ロイの事、
ここでのエドワードの生活ぶりなど、
アルフォンスが聞いてくる事を
エドワードが 面白おかしく話していってやる。

「でさ、その時の皆の表情が面白くてさー、
 俺も思わず・・・。」
ふと、話を途中で切っるエドワードにアルフォンスが
不思議に思って兄の方をみる。

そうすると、ソファーから立ち上がってアルフォンスに
「帰ってきたみたいだ。
 アルも来いよ、ハボック少佐も来てるはずだから。」
とアルフォンスを促す。
アルフォンスも、慌てて立ち上がり 兄と一緒に部屋を出て
玄関の方に歩いていく。
心の準備は出来ていたが、やはり 緊張するのは仕方ない。

「大丈夫だって、あいつらなら
 ちゃんと受け止めてくれるから。」
アルフォンスの緊張がよく解っているエドワードは
兄らしく アルフォンスを気に掛けてやる。

「お帰りー、早かったな。」
扉を開けて、中将と話している兄の後ろで佇んで
その成り行きを見ている。

「あぁ、今日は順調に進んだんでね。
 今日は何もなかったかい?」
そんな会話が聞こえる中、アルフォンスは少々驚いていた。
中将の話し方は 大佐の時から何度も聞いてきたし
話をした事もあったけど、こんなに優しい話し方を
する人だっただろうか?
声の調子からだと、表情も笑顔を浮かべて話している事が
見てとれる。

「ああ、何もなかったぜ。
 アルの奴が着いた位だ。」

中将を通すために、エドワードが扉を大きく開ける。
「そうか、アルフォンス君は無事に着いたんだな。」

そう返事を返して、玄関に入ると
エドワードの後ろに立つ青年に目がとまる。

「アルフォンス君?・・・」
ほぉと思わず目を瞠る。
黙ってしまった中将に名前を呼ばれて、
はっとなって挨拶をする。
「お久しぶりです、アルフォンスです。
 兄がお世話になっております。」

「アル、お世話しているのは俺。」
アルフォンスの緊張をほぐしてやるように
茶目っ気を利かせて口を挟む。

「・・・いや、その通りなんだ。
 エドワードには、お世話になりっぱなしでね。」

ほらなっという風に、アルフォンスに得意げな顔を見せる。
そんな、兄の子供ぽい仕草が思わず笑いを誘い笑顔を浮かべる。
エドワードのおかげで、その場の緊張が溶けて
ロイもアルフォンスに話しかける。

「元に戻れて良かった、
 二人とも、本当に良く頑張ったね。」
生身のアルフォンスの姿を じっくりと見ながら
心から喜んでくれるのが伝わる言葉をかけてくれる。

「ありがとうございます。
 これも、皆さんのおかげだと思っています。」
アルフォンスも、きちんと頭を下げて感謝を伝える。

「いや、私らは たいした事はできなかったよ。
 全ては、君ら二人の頑張りだ。
 しかし・・・、
 大きくなったんだね。」
アルフォンスとエドワードを見比べて、しみじみとつぶやく。
「はぁ・・・。」
中将が言いたいことが解るだけ、苦笑を浮かべて返事を返す。

「・・・なんだよ、それは俺が小さいままって事かよ。」
昔のように「小さい」の単語に爆発はしなくなったものの、
不満げな態度は隠そうともしない。

「いや、君も ちゃんと成長しているよ、もちろん。
 まぁ、アルフォンス君の方が 思ったより大きくなっていたと
 いうか・・・。」

「まぁな、こいつ この1年で、バカスカ成長しちゃって
 俺を追い越していっちゃったからな。」
悔しそうに そういうエドワードの姿が可笑しくて、
ロイは笑いを抑えながら、エドワードを庇うように
言葉をかけてやる。

「だ、大丈夫だ。
 君も ちゃんと成長しているんだし、
 まだまだ これから成長期だからね。」

ロイの『これから成長期』という言葉に気を良くしたのか
そうだぜっと明るい表情を浮かべる。
もちろん、アルフォンス君も これからが成長期なのは
エドワード以上なのだが、今ここで あえては言わないことにした。


「あのぉ~・・・。」
玄関外で忘れ去られていた人物が、控えめに声をかけてくる。

「あっ、しまった!
 ごめん ハボック少佐、ほら入ってこいよ。」

中では旧交を深めるのに忙しく、外で待ってくれている人物を
すっかり忘れていた。

「ちは~」
のつそりと入ってきたハボックが、見慣れない青年に目をとめて
こちらは、素直に驚きを現す。

「おおー! アルか?
 すげー、大きくなっちゃってー。
 しかも、もう1人前の男って感じだぜー。」

こちらは遠慮なしに、立ち尽くすアルフォンスを上から下、
グルッと1周見回すなど、大変 忙しい動きをする。

遠慮なく喜びを現すハボックには 邪気が全く感じられず、
アルフォンスも 久しぶりの この優しい青年の
醸し出す雰囲気に乗せられて、自然に挨拶をする。

「あ、少尉・・・今は 少佐ですね。
 お久しぶりです。」

「おお~、やっぱり変わらず礼儀正しいんだなー!
 変わらねえな、お前も。」

その後、良かった、良かったなーと遠慮なくバシバシと肩や背中を
叩いてくるハボックの変わらぬ態度に、
アルフォンスも、心からの喜びを笑顔で返す。

横では、そんなアルフォンスの姿を 嬉しそうに見つめている
エドワードがいる。
そんなエドワードを見ているロイは、
『やはり、兄なんだな。』と感じていた。

玄関先で、感動の対面を終えた面々は 次回は他の奴らも
連れて遊びにくる約束をして帰っていったハボックと
別れて、部屋に入っていく。

「ロイ、先に着替えてこいよ。
 食事を先にするだろ?」
一緒にリビングに入ろうとしたロイにエドワードが
気を使わなくていいぜと伝える仕草をする。

「そうか・・・、じゃあ 先に着替えさせてもらうよ。」

「おう、その間に食事を温めておくな。
 着替えたら キッチンに来いよな。」

「わかった。」

いつもの流れなのだろう、二人が自然に そんな会話を
して行く姿から感じられる。
それを黙ってみていたアルフォンスに、エドワードが声をかける。

「んじゃ、アルは手伝いな。」
「わかった、で 何を手伝ったらいい?」

二人して、キッチンに入って行く。

着替えたロイがキッチンに入って行くと、
仲良く 二人で料理を準備している姿が見れた。

「兄さん、これの味付けは こんな感じでいいの?」
小皿に取って、エドワードの口に近づける。
エドワードも、小皿を受け取る事無く そのまま口をつけて
味をみる。

「オッケー!上手い。
 じゃあ、盛り付けな。」

「わかった。」

入ってきたロイに気づいたエドワードが、ロイに
もう出来る事を告げて、席につくように声をかける。

コンビネーション良く仕上げた料理をテーブルに
どんどん並べていき、程なく準備が整った。
二人が準備している間に、ロイは冷蔵庫から冷やしておいた
シャンパンを取り出し、グラスを3つ用意する。

二人が席に着いたのを見計らって、それぞれのグラスと
自分のグラスに注いでやる。

「ロイ?」
エドワードが 普段ないロイの行動に問いかけてくる。
「今日はお祝いだよ。
 二人揃って、おめでとうが言える機会だからね。」

そうロイが言ってやると、エドワードが嬉しそうに
「ありがとう。」と照れてぶっきらぼうに返事を返す。

「では、二人とも 本当におめでとう。」
ロイがそう言葉をかけてグラスを持ち上げる。

「サンキュー。」
「ありがとうございます。」
と互いにグラスを上げて礼を返す。

テーブルの上を見ると、エドワードが気合を入れて準備した事が
わかる料理の数々が並んでいる。
しかし、手伝っているアルフォンスの様子をみていると
彼も なかなかの腕前なのがわかった。
その事をエドワード達にはなしてやると、
エドワードが、アルフォンスも料理が上手い事を認める。

「アルの料理のほうが、腕が良いんだぜ。」

「そんな事ないよ。
 僕が出来るのは、教えてもらったのを作る位だから、
 兄さんみたいに、レパートリーは増えてないよ。」

「んにゃ、お前の料理のほうが母さんと同じで上手い。」
そうきっぱりと言うと、アルフォンスが味付けした料理を
美味しそうに・・・、そして懐かしそうに食べる。

『エドワードにとっての最高の料理は
 母親の料理の味というわけだな。』

エドワードの料理を知っているだけあって、
決して エドワードが言うようにアルフォンスの料理のほうが
比較して差が出るほど美味しいという事はないはずだが、
エドワードにとっては、常に1番美味しい料理は
母親の料理の味に近いものなのだろう。

錬金術の能力の差と同じで、料理にしても エドワードは
様様な物を吸収して、自分の味を生み出して変わって行くが
アルフォンスは 忠実に再現する方が得意のようだ。
ロイにすれば、知らぬエドワードの母親の料理より
エドワードが ロイの為に味付けして作ってくれる料理のほうが
数倍美味しく感じる。
でも、それを言った所で エドワードは認めないだろう。
彼の中では、まだ終わらない、終わらせられない罪の想いが
在るのだ。
それほど深く傷ついているという事だ。
多分、自分自身気づいていないほど奥深くで。
それに気づいているロイは、目の前で嬉しそうに会話する
エドワードを静かに見つめている。

リビングで、食後のお茶をする。
ロイも酒は今日は止めにして、エドワードが用意してくれた
コーヒーを飲む事にする。
エドワードは、乾杯のシャンパンが回っているのか
頬をうっすらと染めて、熱いと顔を扇いでいる。
それに引き換え アルコールに強い体質のようなアルフォンスは
何事もないように、用意された紅茶を飲んでいる。

風呂の準備してくると席を外しエドワードが部屋を出て行くのを
待っていたのだろう、アルフォンスがロイに話しかけてくる。

「中将、いきなりなんですが、
 兄が国家錬金術師を続けるのは 了承されているんですか?」
アルフォンスが 1番気に掛けている問題であろう事は
ロイにも解っていた。

「いや、私としても エドワードが国家錬金術師を続けるのは
 賛成はしていないんだが。」

「そうでしょう!
 僕も それに関しては絶対に反対なんです。
 でも、兄さん 僕が何を言っても聞いてくれなくて・・・。

 出来れば中将から、辞める様に言い聞かせてもらえませんか?
 もし、兄が素直に言う事を聞かなくても
 中将なら、兄を辞めさせる事も出来るんじゃないですか?」

「確かに 私ならそれも出来るが・・・、
 しかし、エドワードが決めた事を彼の許可なくする事は
 したいとは思わないが。」

エドワードが続けると言った限り、彼には彼の考えがあるはずだ。
それを、ロイの独断で辞めさせるという強硬手段まで
とって辞めさせる事は、ロイは考えていない。
いざ、差し迫ったらありえるかもしれないが・・・。

「そんな悠長な事を言ってて、もし兄に何かあったら
 僕は軍を恨みます。
 兄が辞めない限り、その心配は続くわけです。
 お金も必要に差し迫られる程でもないし、
 別に今は軍に頼らなくてもいいわけです。

 何故、兄が辞めないのかが僕にはわかりません。」

不満が抑え切れなかったのだろう、
アルフォンスは ロイに食って掛かるように
話を続ける。

「アルフォンス君は、その事で何か聞いていないのかな?」
自分には言わなかった事もアルフォンスには
話している可能性だってある。
その事自体は あまり嬉しいことではないが、
付き合いの長さと信頼の深さを考えれば当然ではある。

「いえ、何も。
 せめて、理由だけでも話してくれれば
 僕だって考えるのに。」

「理由が納得できれば、続けることを許可できるのかね?」

ロイに そう聞かれ、しばらく考え込んだ後に
「いえ、辞めても兄がやりたい事を出来るような方法を
 考えます。」

「なるほど、何があっても辞めさせるべきだと?」

「もちろんです。
 続けていてプラスよりも、マイナスが多いんですから
 辞めるべきだと思います。」

きっぱりと言い切るアルフォンスからは、
再考の余地はないようだ。

「アル、それはお前が決める事じゃない。」
いつのまにか戻ってきていたのか、エドワードが
扉の前で立っていた。

「兄さん・・・。」

「ほら、風呂の用意が出来たぞ。
 先に入って来い。」

「兄さん、聞いてたんなら丁度いいよ、
 中将にもお願いして、国家錬金術師は辞めさせてもらおうよ。」
エドワードが、話を聞かない姿勢を露にしているにも関わらず、
アルフォンスは 必死にエドワードに言い募る。

「アルフォンス、
 お前の心配はありがたいし、わかっている。
 けど、絶対に安全な人生なんて有り得ない。
 それに、
  俺は自分の人生をお前に見てもらうつもりもない。」

ほらっとバスタオルを渡し、風呂に行くようにすすめる仕草をする。
アルフォンスは、兄のきつい言葉の内容にショックを隠せず
暗い表情で、兄に言われたように部屋を出て行った。

「すまない、あいつも本当はわかってるんだ。
 俺が言い出したら利かないのは。
 嫌な話、聞かせちゃったな。」

軍で働いている人間を目の前に、
あれだけ軍への不審を持つ発言をするのは
聞かされて楽しいはずがない。

「いや、私は慣れているからね。
 君が気にするほどでもない。」

「それでも、ごめん。
 あいつも、普段は もう少し気を配る奴なんだけど
 この件に関しては、周りがみれなくなるようで。」

「それだけ、君の事が大切だという事さ。」

気にするな、と笑ってやる。

しかし、アルフォンスが言っていた事も一理ある。
辞めても希望が叶えれるようなら、
その方が良いとロイも思う事を伝えてみる。

「うん・・・、まぁ 叶える夢があるってわけじゃないんだよな。
 
 まぁ、もしもの時に軍に出入り出来る方が
 何かと便利になる時が来るかもしれないし。」

言いづらそうに そういうエドワードの言葉を繰り返す。
「軍に出入りする?」

軍に出入りする等、普通は関係者以外は遠慮するような事柄だろう。
用があって仕方なく行く事になっても、あまり楽しいものではない。
それをあえて出入りする為にだけ?
ロイの回転の速い頭の中で、エドワードが そうまでして軍に出入りを
したがる要因を考えてみる。
もしかしたら・・・、まさか。

1つの答えに突き当たって、ロイは はっとなって
エドワードの顔を見る。

そのロイの表情で、ロイがエドワードの考えを正しくよんだ事に
エドワードには見て取れた。

「あんたが、気にする事じゃないぜ。
 俺が そう決めた事だからな。」

「けど、まさか その為だけに辞めないと言うなら、
 私は反対だ。
 そんな事は 私は望まないよエドワード。」
エドワードが 軍から抜けないのが、自分に原因があるなど、
考えてもいなかっただけあって、
ロイもショックを隠せない。

「あー、 多分、そう言うと思ってたから
 言わなかったのに・・・。

 違う、あんたの為じゃない。
 俺が そうしたいと思ったのに、1番やりやすい方法を
 選んだだけだ。
 
 俺がやりたいと思って取った行動だから、
 あんたはには関係ない。」

なっとロイにうなずいてくる。

しかし、それ位ではロイには納得できるわけが無い。
「しかし、それでは私が納得できない。
 君を危険にさらせてまで、何かをしてもらいたいとは
 私は思わない。」
自分の身の安全の為に、エドワードを危険に晒すなど、
とても ロイに我慢できるはずがない。

「すぐにでも、国家錬金術師を辞めるんだ、エドワード。」
語気もきつくエドワードに言う。

「もぉー、あんたまでアルみたいな事を言うなよ。」

「いや、言わしてもらうよ エドワード。
 軍は辞めるんだ。
 子供に守ってもらうほど、私は別に不甲斐なしではない。
 そういう好意は、ありがた迷惑だ。」
きつい言い方だが、こうでも言わないことには
エドワードには伝わらない。

エドワードの気持ちを踏みにじるような事を言ったロイに
憤慨するかと思ったのだが、
エドワードは落ち着いた表情で、ロイの言った言葉を受け止めている。

「冷静になれよロイ。
 俺は 何もあんたや、軍のメンバーを見くびっているわけでもない。
 だけど、絶対に大丈夫だと言えるほど 
 今が、そしてあんたの立場が安定しているとは思えない。

 俺には 軍の皆みたいに あんたの手足になって動く事は
 できないし、するつもりもない。
 でも、皆が あんたの指示で動いている時に出来る隙間を
 塞ぐ事はできなくても、 見張っておいてやる事はできる。
 それ位はさせてくれても良いだろ?

 それに、あんたの今の立場で、俺ほど優秀な人材を手放すのは
 得策じゃーないぜ。」

穏やかに、そして最後には茶目っ気を交えて話すエドワードの
顔を唖然と見つめる。

『冷静になれよ ロイ。』
過って、唯一親友だと思ってた男も 同じ言葉を言っていた・・・。
クールに振舞うが、ロイは激情家な面も多く
激昂したり、頭に血が上っている時には、
その友人が いつも、ロイに そう呼びかけて、話しかけてくれた。
『冷静になれよ、ロイ
 お前さんらしくないぜ。』とにやけた顔をして、声は常に真剣に。

ロイは昔から、エドワードが絡むと 冷静に判断ができなくなる、
今は 更に手離せないほど気持ちが傾いているのだから、
昔以上だ。

ふぅーと息を吐いて、気持ちと頭を落ち着ける。
確かにエドワードが言っている事は正論だ。
軍のメンバーや、副官のホークアイ中佐が 今ここで居れば
エドワードの意見に賛成するだろう。
そして、そんな当たり前な事が何故わからないのかと
ロイを詰める事、間違いない。
それは、頭ではわかっているのだが
ロイの心の中では納得できないものが生まれている。

「・・・君の言う通りなのは認める。
 しかし、正しいからと・・・。」
なかなか、納得してくれそうもないロイを
苦笑を浮かべながらエドワードは見る。

「なんだよ、そんなに俺が邪魔か?」

「いや、邪魔なんて事はありえないが、
 しかし・・・。」

「ローイ、大丈夫だって。
 それに、そんなに心配なら 俺がしゃしゃり出る幕が
 ないように、早く固めればいいわけだろ?」

なっと、宥めるエドワードに なかなか納得しないロイは
渋い顔を見せる。

「しかし、もし軍から危険な要請が入りでもしたら・・・。」

「そこはそれ、あんたの立場がものを言う時じゃないか。
 俺も、別に軍の仕事をしたいわけじゃない。
 なんで、国家錬金術師は辞めないけど、
 軍から 要請が入らないように策を講じてくれればいいじゃんか。
 それは、あんたのお得意の分野だと思うけど。」

難しい事を 簡単に言うエドワードに、やれやれと言う顔をして
「全く君には恐れ入るよ。
 国軍中将を 使おうというんだから。」
苦笑を浮かべながら そう話すロイが、折れる姿勢を見せた事で
エドワードも 表情を緩める。

「なーに言ってんだよ。
 中将様かなんだか知らないけど、
 朝まともに自分で起きれなくて、人に面倒掛けている
 奴が言う事じゃないぜ。」
にやにやと、ロイの顔を見て笑うエドワードに
参ったよと笑う。

「まぁ、その通りだな。
 確かに 私の生活は 君に全て面倒見てもらってる。
 不甲斐ない人間で、申し訳ない。
 すまないが、宜しく頼む。」

「おう、任せておけ。」
男らしく返事をするエドワードは頼もしくみえる。
そして、彼が何よりも大切にしている弟を怒らせてまで
彼が ロイを大切にしてくれようとしている事が
ロイの心の中で、何よりも嬉しい思いを生み出していく。

『彼の この笑顔を曇らぬように
 出来るだけの事をしていこう。』
ロイは あらたに誓った言葉を心に刻んだ。

パタパタと廊下を歩く音が聞こえる。
エドワードは 急ぎ小さな声でロイに話しかける。
「あっ、でも この話はアルには内緒だぜ。
 でないと、あんた あいつに恨まれるぜ。」

ロイも、先程のアルフォンスの剣幕を知っているだけ、
コクコクとうなずいて返事をする。

「ああ、私もまだ 死にたくないしね。」
二人が 顔を寄せ合い コソコソ話している姿を見て、

「何話してるの?」と
不調面で言うアルフォンスに、
「えっいや、別に・・・。」と焦るエドワードに
ロイが落ち着いて助けを出してやる。

「いや、せっかくアルフォンス君が来ているから
 軍のメンバーも呼んでのサプライズを企画しようと
 話していたとこなんだ。」

忙しい軍のメンバーまで呼んで、自分の為に
何かをしてくれようと言うロイには、
さすがのアルフォンスも、大人しくなる。

「そんな・・、
 兄の都合で押しかけてきているのに、
 そんな事までしてもらっては
 申し訳ないですから。」

「いや、軍の皆も 君に会えるのを楽しみにしているんでね。
 騒がしくて申し訳ないが、付き合ってやってくれると
 私としても、嬉しいんだが。」
誠実な人柄を前面に押し出してのロイの態度には
先ほどの兄との会話で 機嫌を損ねたアルフォンスと
言えども、いつまでも不満げな態度ではいられない。

「ありがとうございます。」と素直に礼を伝える。

和やかになった場のおかげで、
アルフォンスもエドワードも、いつもどうり仲良く
話に興じている。

そして、ロイは その二人の内の一人の、
エドワードの事を考える。
今日は、彼に驚かされてばかりだった。
年齢も経験も はるかに上の自分が、
まだ 子供と言って差し支えない彼に
諭される事があるとは。

成長していくエドワードに 素直に感嘆し、
そして 寂しくも思う。
まるで親離れしていく子供をみるような気分を
味わって・・・。

でも、本当の自分の子供なら 
道を違えて去っていったり、離れたりするかもしれないが、
彼は違う、彼の成長は これから共に横に並んで進むために
頑張ってくれてる為なのだ。
エドワードの言葉と想いはロイにとっては、
遠く暗い道を、明るく強く照らしてくれる光、
ポーラスターのようだ。

そんな事を思いながら、
笑っているエドワードを見つめていく。
眩しい光を宿し輝く、ロイの星を。




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